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2022年9月19日月曜日

松尾君のこと(続き)

 松尾は交通事故を起こしたことがあった。
あれはどこかのコンサートで演奏した後だった。
車は松尾が運転していて、確か松尾と我々4人が乗っていた。
九段下の交差点を坂下の方から右折する時だった。
車がなかなか途切れず右折できるのを待っていた。
信号は黄色から赤に変わっていた。
松尾は右折を始めた。
すると坂上(靖国)の方から直進車が猛スピードで下ってきた。
そのままこちらの車にほぼ正面衝突だった。
私は後ろの席にいて、前の座席に思い切り頭をぶつけた。
しかし怪我は無かった。
助手席にいた人は怪我をした。
松尾が何か叫んでいる声が聞こえていた。
はっきり見えなかったけれど、相手の車のフロントガラスは割れて
誰か(女性だったか?)の頭が見えた。
それから私はそのまま車の中にいた。
救急車が来て私たちは病院に行った。
その後のことを”全く”覚えていない。
松尾はどうしたんだろう?
ずっと後になって松尾に聞いたことがある。
そしたら「大丈夫だった」としか言わなかった。
私は松尾になにかしてやっただろうか?
何かしてあげなければいけなかったんじゃないだろうか?
とずっと考えていた。

それからずっと後になって、お互いいい年になってから、
松尾から電話をくれた。
それでまた一緒にやろうということになってしばらく一緒に
バンドをやっていた。
彼は私の仕事についても心配してくれた。
それで彼の関係の会社に紹介してくれたことがあった。
それは仕事にはならなかったけれど、私の知らない放送関係の
仕事場は訪ねてみて面白かった。
それからも喫茶店で会って何度か話をした。
かれも仕事がいろいろ変わっていた。
しかし私は彼になにかやってあげられただろうか?

思えば私は松尾のやりかたに文句ばかり言っていた。
だけど彼はそれについて直接反論したことがあっただろうか?
それよりも私が間違えたり、うまく演奏できなかった時
彼は文句を言っただろうか?
ずっと思い出していたけど、たぶん無い。
彼は私が何度失敗しても文句を言わなかった。
そうだったんだ。
今になってそれがわかった。
でも私は彼のことを理解していただろうか?
私は彼になにもしてあげなかった。
今になってそう思う。



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