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07「マーティン D-28」

  部員大半の所有するギターが、せいぜいヤマハのFGシリーズ止まりの時代、アコースティック・ギターの最高峰、マーティンは高嶺の花だった。70年はまだ1ドル=360円、一体いくらで買えるのか想像するのも恐ろしい時代に、太田恒寿さんが愛車「スカイライン2000GT」のバックシートからうやうやしく取り出していたのが「マーティン D-28」だった。「触ってもいいですか?」「本当に弾いてもいいんですか?」と、多くの部員がこわごわと嘆願しつつ、憧れのギターを初めて弾いた。最初は意外と弾きにくく、ようやく慣れたころには不安げに見つめる太田さんの視線が気になって、「ありがとうございました」と返上したものである。楽器というよりも、神仏に近かった。


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